「今まで一番読んだ本は何ですか?」と聞かれれば、間違いなく佐治守夫の「ロジャースクライエント中心療法 -カウンセリングの核心を学ぶー」と答えるでしょう。なぜこの本を何度も読み返すのかといえば、それはいたって簡単な理由です。

ページ数が少なく手軽に読めるから。

冗談ではなく、2~3時間もあれば読めてしまうので、何度も何度も読み返しました。何度も読むうちに自分なりの発見もあります。今日はその中から、「感情移入的な理解(empathic understanding)」について自分の想いや発見を書いていきたいなと思っています。本書の中では感情移入的な理解といわれているけれども、「共感的理解」と言われた方がなじみがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、あえて「共感」という言葉を使わなかったのも佐治先生的に思うところがあったのではないかと邪推してしまいます。

なんで、今回このことを書こうと思ったかというと、「いやー岩国先生、私も最近心理学を学んでるんですけどね、やっぱ共感ていうのは同一体験がないとできないと思うわけですよ。心的外傷体験にあった人を共感するには、同じような体験をしないとだめなわけでしょ」というニュアンスのことを結構たくさんの人から言われたからです。

そのたびに「同一体験がある方が共感は難しいんですよ」という説明をするのだけれども「何言ってんだこいつ」という顔をされてしまう。

まとまって文章を書けるブログという媒体を手に入れたのでそのことについて書いてみたい。

内部的照合枠

感情移入的な理解を説明するうえで、内部的照合枠と外部的照合枠の話は外せません。しかしながら、これを説明するのは結構難しいのです。ある、心理士の先生がメガネに例えてこの話をしていたので、私もそれをパクってみます。

当り前の話だけれども、メガネをつけると見え方が変わります。大きく見えたり歪んで見えたり色々あると思います。人間は心の中にもメガネを持っていて、物事を見るときに自分なりの受け止め方ができるように調整されています。価値観といってもいいかもしれません。

迷彩柄の靴をみて、「かっこいいなぁ」と思う人もいれば「軍靴だ」と思う人もいるでしょう。前者は迷彩柄がかっこよく見えるメガネをつけていて、後者は迷彩柄が軍隊に見えてしまうメガネをしているのでしょう。

この人それぞれに持っている価値観のメガネこそが内部的照合枠なのです。これは、面接場面でカウンセラーも自分の内部的照合枠を持っているし、クライアントも自分の内部的照合枠を持っています。

ちなみに、学術的裏付けを持って極めて客観的に判断してくメガネを外部的照合枠と言ったりします。お医者さんが診断をつけるときのイメージでしょうか。

感情移入的な理解と同一体験

感情移入的な理解では、クライアントさんの内的照合枠をあたかも自分が持っていたら世界がどのように見えるのか、ということを想像する作業です。文字で書くとものすごく簡単そうですが、これは結構難しいです。

「今完璧にクライアントさんに感情移入的な理解ができた!!!」と思ってもそれはカウンセラーの独りよがりだったりすることもあります。SVを受けて、「それは共感じゃなくて君のナルシシズムだよ」と言われて涙したことも少なくありません。

ともかく、カウンセリングを通してこの作業を行っていくわけですが、その作業の中でジョーカーのような役割をするのが「同一体験」だと思います。はまれば最高の役割を発揮するけれども、はまらないと邪魔以外の何物でもないのです。

フィクションの事例ですが、私がいじめを受けた被害者のカウンセリングを持ったとしましょう。実は私も小学校時代にいじめを受けていたことがあります。彼の話を聞いていくと無視やものを隠されていたりして、ますます自分の経験と重なってきます。そうなってくると自分の体験も思い返されて「それは本当につらかったよね。苦しいのはこらえる必要なくてお休みしてしまうのも一つの手だと思うよ」なんて言ってしまったりしたとしましょう。

この面接の中で、彼の内部的照合枠を想像しなければならないのに、完全に自分の体験に引っ張られて、自分の内部的照合枠で見てしまっています。「辛かったよね」という言葉は当時の自分にかけているのであって、彼にかけているわけではありません。「休んでもいいんだよ」というのも、同じです。

この後、よく話を聞いてみたら彼から

「僕は本当にムカついている。どうにかしていじめをした人にやり返してやりたいと思っているんです」

という言葉が出てきたとしましょう。カウンセラーの言った「辛かった」という言葉と「ムカついている」という言葉の間には隔たりがあるとは思いませんか。

このように、同一体験というのは一歩間違えれば、共感を難しくしてしまう種でもあります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。ツイッターでもブログでも感想やご意見を聞かせていただければと思います。