「心理カウンセラーになってみたい」
「心理カウンセリングをやってみたい」

このように思う方はいらっしゃると思います。心理カウンセリングは法的にも倫理的にも有資格者の専売特許ではありません。資格がなくてもしっかりとした心理カウンセリングを行うことができます。

ただ、やはり訓練(練習)を受けずに心理カウンセリングを行うのは難しいです。一口に「訓練(練習)」といってもどんなことをすればよいのか想像できないという人もいらっしゃいます。

今回は、心理カウンセリングを行う為に必要な訓練(練習)を詳しく解説してみました。このような訓練(練習)課程を経ることで、無資格でもしっかりとしたカウンセリングを行えるようになります。

カウンセリングをやってみたいと思ったときに必要なこと

心理カウンセリングなので、当然いろいろなことを学ばないといけません。

「私は勉強が嫌いなんで、できれば学習はなしで」

という方も中にはいるかと思いますが、残念ながら学習は避けて通れません。心理カウンセリングは心理学を基盤としていますので、心理学を勉強することは必須です。別に勉強しないでカウンセリングっぽいものを行うことは可能かもしれませんが、それは「心理カウンセリング」というよりは、「実施者が独自の方法論で話をしている」という状態に近いのかなと感じています。それが悪いという意味ではありません。

「勉強しないでも、カウンセリングをやり続ければそのうち上達するのでは?」という質問もよくいただきますが、これに関しても私は否定的です。心理カウンセリングの関係性の持ち方は日常生活とは異質なものです。この「異質さ」をしっかりと理解しないと、「日常の延長」での話し合いにしかなりません。

心理カウンセリングの訓練(練習)課程は、主に3つに分かれると思います。

それぞれの段階でどのようなことが必要になってくるのかを見ていきましょう。

知識・技術の習得

心理学について一通りの知識を学ぶことは必須です。医学を学んでない医者に手術してもらうのは怖いですよね。実際に体にメスを入れるわけではありませんが、人の心にメスを入れるにも等しい行為です。それ相当の責任が発生する行為ですので、しっかりと勉強しましょう。

心理学・臨床心理学に関する知識を学ぶ

目安としては大学4年間で学ぶことが頭に入っていれば大丈夫です。具体的に言うならば、適当な大学院の過去問題を眺めてみて7割程度得点できる程度の学力は必要でしょう。臨床心理学だけでなく、基礎心理学・発達心理学・臨床心理学・認知心理学・研究法などの知識が必要です。

大学院の試験は解答がついていないことも多いので、心理学検定1級を目安にするのもよいかもしれません。心理学検定1級が難なくとれるのであれば、必要な知識は身についているのではないでしょうか。

「何を教科書に勉強すればいいですか?」と聞かれることが多いのですが、本気でやる気ならばヒルガードの心理学しかありません。いろいろな本を買う必要はありません。ヒルガードの中身をしっかりと理解していれば、心理学検定1級や大学院入試のスタートラインに立っています。あとはひたすら過去問を解けば良いです。

「いやーでも値段も高いしちょっと躊躇するなぁ」という方は、東大出版の心理学をお勧めします。手頃な値段で必要なことをかいつまんで学ぶことができます。これを読んでみてから本格的に学習すべきかどうか決めてもよいでしょう。

技術を習得する

知識だけでなく、技術も必要になります。カウンセリングの技術は後述するロールプレイで学習すればよいです。ここでしっかりと学んでおかなければならないのは査定でしょう。もちろん査定もロールプレイをしながら練習しますが、ここでやるべきは「自分が被験者となって受けておくこと」でしょう。熟練したセラピストにテストを実施してもらい、ローデータだけもらって自分で所見を書くというのがよい勉強になると思います。実際に、大学院1年生の時はあらゆる心理テストを自分で受けてみることになります。

現場でよく見るものとしては、WAIS・WISC・MMPI・TEG・YG性格検査・PFスタディ・バウムテスト・ロールシャッハテストあたりでしょう。病院などでは、訓練(練習)目的のテストはとってもらえませんので教育的な仕事も引き受ける心理相談室にお願いするのがよいでしょう。もしも、心当たりがなければ紹介することもできます。

「私はカウンリングだけするので、心理検査の技術は必要ないと思います」とお感じの方もいらっしゃるでしょう。心理検査とは、あらゆる角度からクライエントさんのことを知る手掛かりになります。来談した人の葛藤や苦悩を知るためにも、検査を取らなかったとしても検査で必要となる視点は求められます。そのような理由から、カウンセリングを行うなら必ず心理検査についても学習するようにしましょう。

ここまでが、実際の訓練(練習)に入る前の前提条件となります。

ロールプレイで訓練(練習)を行う

前提の知識を学んだら、いよいよ本格的な訓練(練習)を行います。「訓練(練習)といえばロールプレイ&SV(スーパーヴィジョン)」といわれるくらいに心理士の間では基礎的なものです。カウンセリングを学んでいる人同士で役割を設定して、カウンセリング場面を演じます。カウンセラー側は特に設定もいらないのですが、クライエント側は設定を細かく作っていきます。

例えば

名前:石島 三太夫
性別:男
年齢:50歳
成育歴:北海道釧路市で長男として生まれる。農業を営む家庭で父方祖父母、父母、弟、妹と共に育つ。小さなころから家業を手伝ってきた。父親は昼間から酒を飲み、あまり仕事にも出かけない。母親は、その父親を叱責することが多く夫婦喧嘩が絶えなかった。仕事は主に、母親と本人が行い学校に行くよりも仕事をしていた時間のほうが長い。高校は全寮制の農業高校に進学、卒後は上京し繁華街で水商売のボーイとして働く。お店で同じく働いていたボーイと恋愛関係になり10年近く一緒に生活をするが喧嘩し破局する。現在は繁華街でお店を経営している。

来談への経緯
お店を経営している関係もあり、毎日酒を浴びるように飲む。現在一緒に住んでいるパートナーが「アルコール依存症なのでは?」と執拗に問い詰めてくる。先日もアルコールの飲み方で喧嘩になり、「病院に行かなければ別れる!」と言われ仕方なく病院へ。アルコール依存症だといわれたが、納得がいっていない。医師からカウンセリングをすすめられたがあまり来る気はなかった。しかし、パートナーがしつこく誘うので仕方なく来談した。

このように、設定を作りこみ、クライエント役の人は石島三太夫さんになりきってカウンセリングを受けます。1時間なら1時間と決め、始めたら途中でやめずに最後までやり切ります。

そして、必ずSV(スーパーヴァイザー)をつけて録画や逐語録を作って振り返りを行います。SVはだれでもよいというわけではなく、臨床経験が豊富な心理職がよいでしょう。逐語録は非常に大変ですが、録画は簡単に撮れるので可能であれば毎回録画して、二人で振り返りを行うのがよいでしょう。

SVが「そろそろケースを持っても良い」と判断すればいよいよ現実のケースを扱うことになります。

*SV(スーパーヴィジョン)
熟練した心理士に自分の持っているケースを報告し、コメントをもらう。心理士業界では一種の師弟関係のようなもの。コメントをもらうことをスーパーヴィジョンといい、熟練した心理士のことをスーパーヴァイザーという。どちらもSVと略されるため文脈で判断するしかない。

ロールイン ロールアウトを忘れずに

ロールプレイを行うときは必ずロールインとロールアウトするようにしましょう。ロールプレイはあくまでも役割を演じるだけなので、あなたではありません。「自分と今から演じる人は別の人間ですよ」ということを明確にするために行われるのがロールイン、ロールアウトです。健康度の高い人ならばロールプレイでどうにかなることはありませんが、具合が悪いと琴線に触れダメージを食らうことがあります。

ロールイン

まず、席に座らずにこれからロールプレイが行われる席を眺めます。そして、相手に「これからロールプレイをしましょう」と話しかけます。もし、扉があるのならば一度外に出て外で「よーい、スタート!」と言って手をたたきます。それから扉を開けてロールプレイがスタートです。扉がないところであれば、スタートの掛け声の後に席に座ってスタートです。

ロールアウト

扉がある部屋だったら、部屋から出るまでロールプレイを続けます。そして、手をたたき「ロールプレイはおしまいです!」と宣言してください。そして再び部屋の中に入り、先ほどまで座っていた席を眺めます。そして、「私は○○という名前です」と自分の本名を名乗るようにしてください。クライエント役もセラピスト役も同じことを行います。
扉がない場合は、ロールプレイの終了を宣言して席から立ちましょう。

訓練(練習)中であることを明らかにしてケースを受ける

SVが「そろそろケースを持っても良いのでは」と言ったら実際にケースを持つことになります。この場合の注意点は「インテーク(初回面接)は熟練した心理士が行うこと」「必ず訓練(練習)中であることを明らかにすること」「無償では行わない」「倫理規定が整備された安全な場所で行うこと」です。

初回面接はどのような人が来るかわかりません。もしかしたら「どう考えてもカウンセリング適応ではない人」が来談することもあるのです。その場合、経験の浅い心理士が初回面接を行い、受理してしまったら大変です。初回面接は適切な場所に紹介する役割もあるので、それが判断できる人がやらなければなりません。

訓練(練習)中であることは明らかにする必要があります。「熟練した心理士のアドバイスの下で行っています」と同時に言うのがよいでしょう。

訓練(練習)であればあるほどきちんとお金をもらうことが重要になります。カウンセリングの場は日常生活とは切り離された異質な場所です。友人関係の中でお話を聞いているというのとは訳が違いますので、「異質な場所」を設定するためにも「お金を払う」ということが必要になってきます。あくまでも職業としてカウンセラーをやっていて、友人でも恋人でもほかの何物でもないという設定をするために必要なのです。

倫理規定が整備された安心な場所で行うことはとても重要です。カウンセラーはクライエントさんの話をいろいろ聴かせていただける立場です。それだけに、ほかに話されたら困るようなことや、悪用できるような情報も含まれます。そのような、クライエントさんが被りうる不利益をきちんと制限できる規定が必要になるのは言うまでもありません。また、物理的に安心安全な場所で行うことも重要です。街のカフェなど不特定多数の人が出入りして話が漏れてしまうような場所では安全安心に話すことはできません。カウンセリングを行うならば、話がほかの人に聞かれないしっかりとしたカウンセリングルームで行う必要があります。

基本的にはすべてのセッションについてSVを受けましょう。SVが「もう大丈夫ですね」と言ってくれたら、あなたも初心者カウンセラーは卒業です。訓練(練習)中と言わずにケースを受理することができるでしょう。

まとめ
ここまでのことを行えば、資格がなかったとしても十分なカウンセリングができると思います。逆に言うならば、この訓練(練習)を受けたことを資格が証明しているとも言えます。現に臨床心理士や公認心理師を持たれている方はこの訓練(練習)と同等の経験をお持ちのはずです。

ここまで読んでいただいた方ならば、お分かりになると思いますが、SVの存在はとても重要です。十分な経験を積んでいないSVだと、訓練(練習)を受けるほうも十分な心理士にはなれません。必ず臨床経験が豊富で、実力を裏付けるだけの経歴を持たれている方をSVに選ぶことをお勧めします。