本サイトにおける、事例問題の見方に関してはこちらをどうぞ。

午後 問148

40 歳の女性 A。A には二人の息子がいたが、A の長男が交通事故に巻き込まれ急死した。事故から半年が経過しても、涙が出て何も手につかない状態が続いている。A の状態を案じた夫に連れられて、カウンセリングルームに来室した。カウンセリングの中で、A は「加害者を苦しめ続けてやる。自分はこんなに悲しみに暮れている。息子が亡くなったのに平気な顔で生活している夫の神経が信じられない」などと繰り返し語っている。

このときの A への支援の在り方として、最も適切なものをつ選べ。

1、加害者を苦しめ続けたいという A の気持ちを否定しない。
2、Aの安心を優先させるため「私はあなたを全部理解できる」と言う。
3、A の話が堂々巡りになっているため、将来のことに話題を変える。
4、カウンセリングで良くなった担当事例を紹介して、A を勇気づける。
5、Aの考えに同調し「確かにご主人の神経は信じられませんね」と言う。

引用:公認心理師試験 午後問題

考察

感情移入的な理解についての設問でしょう。近年、共感という言葉が独り歩きし専門職の中でも「同一体験がなければ共感なんてできなのでは?」という声が聞かれるようになりました。これに対して、私の答えはNoです。同一体験がないからこそ、共感しやすいのです。

以前に記事にしましたので、気になる方はコチラをどうぞ。

カウンセリング場面における、受け答えや返答はそれに「自己一致」できているかどうかということが重要だと思っています。
自己一致に関しては初学者でも習う割に、難しい概念です。理想の自分と現実の自分がいて、その重なりを広げること、もしくは重なっているところを指す言葉として「自己一致」は使われます。

カウンセラーとして面接場面に入るときに、我々は「理想のカウンセラー像」というものを持っています。クライエントさんの言っていることが100%腑に落ちて、クライエントさんの感じている世界を100%感じているカウンセラーです。でも、現実の自分はそうじゃありません。至らない部分もあるし、分からないことも、困ったことも、イライラすることもあるでしょう。「理想のカウンセラー」に引っ張られて、「現実の自分が感じてもいないこと」を返答するのはまずい受け答えです。

さて、そんな観点からこの返答を見てみましょう。

2番の解答はまさに「理想のカウンセラー像に引っ張られた解答」といえるでしょう。だって、すべて分かっているわけありませんよね。
心理士の面接とはこういうものだろうという理想に引っ張られて、全然現実の自分がついてきていません。この言葉は自己一致していないといえるでしょう。

3番も「問題解決するカウンセラー」というものに引っ張られているような気がします。「問題解決」ということに焦点を当てると、同じような話は不要だと感じてしまいますしなるべくなら合理的・建設的に話をしたいと思うことでしょう。

佐治守夫のカウンセリング入門のなかでは、このような聴き方を「相手の話の筋道をたてて、論理的に矛盾なくくみたてようとして聴く態度」と定義している。
論理的・知的に話を聴こうとするときは「相手の感情的混乱からくる話の錯綜や筋の逸脱は、じゃまなもの、困った場面としてしかうけとれなくなる」と述べている。ただ、事例のような出来事に遭遇したクライエントさんは感情的に混乱し、話は錯綜するのが通常ではないでしょうか。ここにこそ、焦点のあてどころはあると思います。

4番は、「大丈夫元気になった例もありますから、あなたも必ず元気になりますよ」と言っているようなものです。そもそも、夫に連れてこられて面接場面に来ています。そもそも、元気になりたいのでしょうか。本人の口から語れるのは「復讐をしたい」ということです。クライエントの言っていることをよく聴かずに安易に「よくなります」ということにとても違和感を覚えます。

5番は、「そこかよ」と突っ込みたくなりますね。焦点を当てる部分が間違っていると言わざるを得ません。そもそも夫が信じられないというのは、「こんなに加害者のことを腹立たしく思っているのに、夫はそのようには思わないのか」という感情の裏返しとも言えます。ちょっと受け答えとしてはトンチンカンですね。

以上から、私は1番を選択しました。
大切な人を亡くしたAが、その原因となる相手を憎むことは十分に理解できます。面接を受けている現実の自分もきっと理解できますし、理想のカウンセラーである自分もきっと理解できます。この自己一致できてる部分で面接を進めていくというのは、この局面で取りうる最善の受け答えだと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。ツイッター(@iwakunily)でもブログでも感想やご意見を聞かせていただければと思います。